アクセシビリティ
Accessibilityあくせしびりてぃ
アクセシビリティとは、年齢や身体の状況、使っている機器や周囲の環境にかかわらず、誰もがWebサイトの情報にたどり着き、操作できる状態のこと。一部の人のための特別な配慮ではなく、本来届くはずだった人を取りこぼさないための設計であり、結果として全員にとって読みやすく使いやすいサイトになります。
届かなかった人は、何も言わずに帰る
Webサイトの問題の多くは、問い合わせや電話という形で表に出てきます。ところがアクセシビリティの問題だけは違います。文字が読めなかった人、ボタンが押せなかった人は、こちらに何も伝えないまま離れます。「見づらいので直してください」と連絡してくる人はほとんどいません。だから運営側から見ると、そこには最初から誰も来なかったように見える。アクセス解析にも「離脱」としか記録されないため、原因の欄には何も残りません。届かなかった人の存在そのものが、数字の上では消えてしまうわけです。
そして、この「届かなかった人」は例外的な少数ではありません。日本は人口の高齢化が進んでおり、意思決定をする経営層や、購入を検討する顧客の年齢層も上がっています。老眼で細かい文字が読みにくい、薄いグレーの文字が背景に溶けて見えない、というのは加齢に伴って誰にでも起きる変化です。さらに、身体の状況に関係なく起きる制約もあります。移動中で片手しか使えない、電車の中で音が出せない、屋外で画面が反射して見えにくい。これらは一時的な状況ですが、その瞬間に情報が届かないという結果は同じです。つまりアクセシビリティは、限られた誰かのための話ではなく、ある日の自分にも起きる条件の話です。
制度の面でも位置づけが変わってきました。2024年4月に施行された改正障害者差別解消法により、民間事業者にも合理的配慮の提供が義務づけられています。Webサイトが特定の規格に適合すること自体が直ちに義務になるわけではありませんが、情報を提供する事業者として、環境を整えておく必要性は明確に高まりました。技術的な基準としては、W3Cが定める国際的なガイドラインであるWCAGと、それに対応した日本のJIS X 8341-3が参照されます。とはいえ、中小企業がいきなり規格への完全適合を目指す必要はありません。実際には、上位のいくつかの項目を直すだけで、届かない人の大半は減ります。重要なのは満点を取ることではなく、取りこぼしの大きいところから順に手を入れることです。
配慮として後から足すのではなく、届かない人を減らす設計として最初から組み込む。
顧客心理の視点で見ると、アクセシビリティが効くのは顧客が「自分が悪い」と思って黙って去るからです。文字が読めない、ボタンが反応しない、フォームでエラーの理由が分からない──こうした場面で、多くの人は「サイトの作りが悪い」とは考えません。「自分の目が悪いから」「自分が操作を間違えたから」と受け止め、恥ずかしさや面倒くささから、そのまま画面を閉じます。ここで失われているのは1件の閲覧ではなく、そのまま進めば相談まで来たはずの関心です。逆に、文字が十分に大きく、必要な情報が迷わず読める状態になっていると、顧客は「この会社は分かっている人が作っている」という印象を持ちます。読みやすさは、それ自体が信頼の材料になる。中小企業の場合、まず自社の顧客層の年齢を考えて、その世代が自分のスマートフォンで無理なく読めるかを確かめるところから始めると、判断を誤りません。
仕組み化の視点では、4つの段取りで組み立てます。①自社サイトの主要な3ページ(トップ・サービス紹介・問い合わせ)に絞る ②後述する5点のチェックを実際の端末で行う ③直す項目を、影響の大きい順に並べる ④テンプレートやCSSの共通部分を直し、以降作るページには自動的に適用されるようにする。この④が肝心です。ページごとに個別対応していると、新しいページを作るたびに同じ問題が再発します。文字サイズ、色の濃さ、リンクの見え方、フォームの入力欄──これらは共通の設定として一度決めてしまえば、以降は考えなくても守られる状態にできます。さらに、公開前の確認項目リストに5点を組み込んでおけば、担当者が代わっても品質が落ちません。個人の意識に頼ると必ず抜けが出るので、作る手順そのものに埋め込むのが現実的な方法です。
AI活用の視点では、3つの使い方があります。1つ目は文章の読みやすさの点検で、ページの原稿を渡し「一文が長すぎる箇所、専門用語のまま説明のない箇所を指摘して」と依頼すると、読み上げソフトでも理解しにくい部分が事前に洗い出せます。2つ目は代替テキストの下書きで、画像の意図を伝えたうえで代替テキスト案を出させ、人が意味を確認して確定する。画像が多いサイトほど効きます。3つ目は見落としの点検で、作ったチェックリストを渡し「この観点で漏れているものは何か」と反論させると、自社では気づかない項目が出てきます。ただし注意点があります。自動チェックツールやAIが判定できるのは形式的な部分に限られ、代替テキストの内容が実際に意味を伝えているか、操作の順序が理解できるかは、最終的に人が確かめるしかありません。点数を上げることを目的にすると、機械には合格するが人には使えないサイトになります。
図解:別々の状況の人が、同じ設計の欠けでつまずく
下の図は、異なる状況にいる4人が、それぞれ別の理由でサイトを離れる場面を示したものです。原因をたどると、いずれもサイト側の同じ設計の欠けに行き着きます。1つ直すと、複数の人に同時に届くようになるのがアクセシビリティの特徴です。下段は、中小企業が最初に確認する5点と、やりがちな失敗です。
事例で見る:国内・海外
Microsoft ── 制約のある人向けの設計が、全員の使いやすさに戻る
Microsoftがインクルーシブデザインの考え方を公開し、その一環として、手や指の動きに制約がある人でもゲームを操作できるXbox Adaptive Controllerを開発したことは広く知られています。この取り組みで特徴的なのは、制約を「永続的なもの」だけに限定していない点です。同社が示す整理では、腕を失っている状態(永続的)、腕を骨折している状態(一時的)、赤ちゃんを抱いている状態(状況的)を、いずれも「片手しか使えない」という同じ条件として扱います。特定の人のために設計したものが、実は多くの人にとっての使いやすさにつながるという考え方です。この視点はWebサイトにもそのまま当てはまります。読み上げソフトのために見出しを正しく構造化すれば、流し読みする人にとっても内容がつかみやすくなる。音声が聞けない人のために字幕をつければ、移動中に見る人にも届く。つまりアクセシビリティ対応は、特別な誰かのためのコストではなく、全員に向けた品質改善だということです。なお、この取り組みによる具体的な売上や利用者数の変化は公開情報から断定できないため、ここでは扱いません。
高齢の家族が見る、地域のサービス事業者 ── 3ページから始める
たとえば、地域で高齢者向けのサービスを提供している事業者を考えます。実際にサイトを見るのは、本人だけでなくその家族です。年齢層は幅広く、多くはスマートフォンで、しかも移動中や仕事の合間に短時間だけ見ています。この状況で最初に効くのは、規格への網羅的な対応ではなく、主要3ページの読みやすさを底上げすることです。具体的には、本文の文字を一段大きくする、薄いグレーの文字をやめて濃さを確保する、電話番号を画像ではなくテキストにしてタップで発信できるようにする、料金や対応地域といった最も知りたい情報を画像の中ではなく文字で書く。この4点だけでも、これまで読めずに離れていた人がかなり減ります。実務上のコツは3つです。1つは、対象を主要3ページに絞ること。全ページを一度に直そうとすると着手できません。2つ目は、直す場所をテンプレートやCSSの共通部分にすること。個別ページを直すと、次に作るページで同じ問題が再発します。3つ目は、実際の端末で、想定する年齢層の人に見てもらうことです。作った本人の目には問題なく見えます。これは特定企業の実績ではなく、幅広い年齢層が閲覧する事業者サイトで取りやすい代表的な進め方です。
現場での使い方:5ステップ
- 対象を主要3ページに絞るトップ・サービス紹介・問い合わせの3つ。全ページを対象にすると着手できず、結局何も直らない。
- 実際の端末で5点を確認する自動チェックツールの点数ではなく、自分のスマートフォンとキーボードで試す。屋外でも一度見てみる。
- 影響の大きい順に並べる読めない・押せない・送信できないを最優先。見た目の細かい調整は後回しでよい。
- 共通部分を直し、以降は自動的に守られる形にする文字サイズや色の設定はテンプレート側で決める。ページごとの対応にすると必ず再発する。
- 公開前チェックリストに組み込む5点を確認項目として手順に埋め込む。担当者の意識に頼らず、作る流れの中で守られる状態にする。
関連用語
まとめ:届かない人を減らすことは、全員の読みやすさに戻る
アクセシビリティは、年齢や身体の状況、利用環境にかかわらず情報が届く状態をつくることです。届かなかった人は理由を伝えずに離れるため、運営側の数字には何も残りません。だからこそ、こちらから確認しにいく必要があります。始め方は難しくありません。主要3ページに絞り、代替テキスト・文字の明暗差・色だけに頼らない表示・キーボード操作・動画の字幕という5点を、実際の端末で確かめる。直す場所はテンプレートの共通部分にして、以降作るページでは自動的に守られる形にする。文章の点検や代替テキストの下書きはAIに任せ、意味が伝わっているかは人が確かめる。読みやすさを整えることは、特定の誰かへの配慮であると同時に、すべての顧客が迷わず次に進める仕組みをつくることでもあります。

