マーケティング用語集カテゴリ:戦略・設計

PR

Public Relationsぴーあーる(ぱぶりっく・りれーしょんず)

英語表記
Public Relations
カテゴリ
戦略・設計
難易度
★★☆(実務者向け)

PR(パブリックリレーションズ)とは、組織と、その組織に関わる人々との間に良好な関係を築いていく継続的な活動です。日本語では「広報」と訳されますが、実態は情報を出す作業ではなく関係をつくる設計にあたります。枠を買って自社の言葉で語る広告と対照的に、PRは第三者が語ってくれる状態をつくることで信頼を積み上げます。

Why it matters

「自社が言ったこと」より「他人が言ったこと」が効く時代

PRという言葉は、日本では「宣伝」とほぼ同義に使われがちです。求人票の「PR文」、店頭の「PR中」。しかし本来の Public Relations は、パブリック(=その組織に関わりのある人々)とのリレーション(=関係)を指します。ここでいうパブリックは顧客だけではありません。取引先、地域、金融機関、行政、採用候補者、そして自社の従業員。売上に直結しない相手も含めて関係を扱う点が、販売促進との決定的な違いです。

米国のPR業界団体であるPRSA(Public Relations Society of America)は、2012年に定義を刷新し、PRを「組織とそのパブリックとの間に、相互に利益のある関係を築く戦略的なコミュニケーションのプロセス」と表現しました。注目すべきは「相互に利益のある(mutually beneficial)」という条件です。自社に都合のよい情報を流すことはPRではない、という線がここで引かれています。学問的な系譜としても、1923年に『Crystallizing Public Opinion』を著したエドワード・バーネイズらを起点に、PRは一貫して「世論との関係をどう扱うか」という問いとして扱われてきました。

なぜいま、中小企業にとってPRの比重が上がっているのか。理由は単純で、広告のコストが上がり続ける一方、人が判断に使う情報源が「他人の言葉」に寄っているからです。検索結果の口コミ、SNSの投稿、業界メディアの記事、取引先からの紹介。買い手はこれらを見比べてから問い合わせてきます。ここで効くのは、自社が広告枠で述べた自己申告ではなく、第三者の位置から語られた情報です。広告と違って掲載は保証されず、内容も完全にはコントロールできない。しかしコントロールできないからこそ、受け手はそれを信じます。

実務では、情報の出口を4つに分けて考えると整理しやすくなります。ペイド(広告枠)/オウンド(自社サイト・自社メディア)/シェアード(SNSでの拡散)/アーンド(メディアや第三者が自発的に取り上げる)。PRの中心はアーンドですが、アーンドはいきなり手に入りません。オウンドに語るべき事実が置かれていて、はじめてシェアードとアーンドが動きますブランディングが「どう見られたいか」を定める活動だとすれば、PRはそれを外部の言葉に翻訳して流通させる活動にあたります。

Our perspective

PRは、話題をつくる仕事ではない。語ってもらえる事実を、先に用意しておく仕事。

顧客心理の視点で見ると、人は売り手が自分について語った言葉を、割り引いて受け取ります。「品質に自信があります」と自社サイトに書いてあっても、判断材料にはなりません。書くのは当たり前だからです。一方、業界メディアの記事や、取引先の「あそこは対応が早い」という一言は、そのまま信じられます。差を生んでいるのは情報の中身ではなく、誰の口から出たかという一点です。だからPRで設計すべきなのは、伝えたいメッセージの文言ではなく、第三者が引用したくなる事実そのものになります。地域で最初に導入した設備、10年続けている取り組み、独自に集めたデータ。これらは自社が語らなくても、誰かが語る理由になります。逆に「創業以来お客様第一」のような、誰にでも言える言葉は、誰も引用しません。

仕組み化の視点では、PRを「思い立ったときに発表する活動」から「語れる材料が自動的に溜まる仕組み」に変えます。①ネタの貯蔵庫をつくる——新しい取り組み、導入事例、社内の数字、現場の写真を、発表するかどうかに関わらず1か所に集めておく。②出口を決めておく——同じ材料を、自社サイトの記事、プレスリリース、SNS、営業資料の4つに展開する型を用意する。③関係先の一覧を持つ——業界紙、地方紙、専門メディア、業界団体。担当者名まで含めて更新し続ける。この3つを一度整えれば、材料が入るたびに、人が企画会議をしなくても発信が流れ出します。中小企業のPRが続かない最大の原因は熱量不足ではなく、材料と出口が毎回ゼロから始まることです。

AI活用の視点では、二か所が効きます。ひとつは入口の監視です。自社名・商品名・業界キーワードへの言及を常時収集し、感情分析で肯定・否定の傾きを見る。ソーシャルリスニングの自動化です。人が毎日エゴサーチする必要はありません。もうひとつは出口の変換で、1つの材料からプレスリリース案、記事案、SNS投稿案を同時に生成させる使い方です。ARGASのように行動を追跡できる仕組みと組み合わせれば、記事が出た後に流入した相手がその後どう動いたかまで追え、「露出した」で終わらせずに商談への接続を確認できます。ただし注意点があります。AIに事実を作らせてはいけません。PRで一度でも不正確な情報を出すと、それまで積み上げた関係が一気に失われます。AIに任せてよいのは表現と探索までで、事実確認は必ず人が行ってください。

Diagram

図解:自社が語る状態から、第三者が語る状態へ

上段はPRが進む流れ。下段は広告との違いと、情報の4つの出口です。アーンドは最後に生まれる結果であって、最初に狙う対象ではありません。

自社が語る状態から、第三者が語る状態へ 進むほど、思いどおりにできる度合いは下がり、信じられる度合いは上がる ① 事実をつくる 引用される材料を持つ 取り組み・数字・事例 なければ何も始まらない ② 自社から伝える 自社サイト・リリース 文脈をつけて置く ここまでは自分で決められる ③ 第三者が語る メディア・口コミ・紹介 言い回しは選べない だから、そのまま信じられる ④ 指名で選ばれる 社名で検索される 比較検討の前に来る 広告費に左右されない 自社で決められる度合い 受け手が感じる信頼度 広告 ── 枠を買って、自社の言葉で語る 出す時期も文言も選べる。掲載は確実。 止めれば、その瞬間に露出も止まる。 言うのは当たり前 → 割り引いて受け取られる PR ── 第三者に語ってもらう状態をつくる 掲載も文言も保証されない。時間もかかる。 一度出た記事や口コミは、残り続ける。 選べないからこそ → そのまま信じられる 情報の4つの出口(オウンドに事実がないと、右の2つは動かない) ペイド 買った枠。確実だが 払い続ける必要がある オウンド(起点) 自社サイト・事例・ データ。ここに事実を置く シェアード SNSでの言及・拡散。 最初に反応が出る場所 アーンド メディア掲載・紹介。 狙う対象でなく、結果 PRの対象は顧客だけではない。取引先・地域・金融機関・採用候補者・従業員を含む「関わりのある人々」すべてが相手になる。 語ってもらえる事実を、先に用意しておく

Case studies

事例で見る:国内・海外

海外

PRSAによる定義の刷新(2012年) ── 業界自身が「宣伝ではない」と引き直した線

米国のPR業界団体であるPRSA(Public Relations Society of America)は、長く使われてきたPRの定義が実態に合わなくなったとして、2012年に定義を刷新しました。新しい定義は「組織とそのパブリックとの間に、相互に利益のある関係を築く戦略的なコミュニケーションのプロセス」というものです。ここで重要なのは、業界団体自身が「PRとは情報を発信して認知を取る技術である」という理解を退けたという事実です。定義の中心語は「関係(relationships)」であり、しかもそれは「相互に利益のある」ものでなければならないとされました。この線引きが意味するのは、自社にだけ都合のよい情報を流通させる行為は、たとえ露出が取れてもPRの成果とは呼べないということです。学問的な系譜をたどれば、1923年に『Crystallizing Public Opinion』を著したエドワード・バーネイズの時代から、PRは一貫して世論との関係の扱い方をめぐる領域でした。中小企業にとっての含意は明快で、PRの成果を「何回掲載されたか」で測ると、方向を見誤るということです。測るべきは、その掲載によって誰との関係がどう変わったかになります。

How to use

現場での使い方:5ステップ

  1. 関わりのある相手を書き出す顧客だけでなく、取引先・地域・金融機関・採用候補者・従業員まで。それぞれが自社の何を知りたいかを1行ずつ書く。ここが設計図になる。
  2. 語れる事実を1か所に集める新しい取り組み、導入事例、続けている習慣、社内の数字、現場の写真。発表するかどうかは後で決め、まず溜める場所をつくる。
  3. オウンドに置いてから外に出す自社サイトに事実が載っていない状態で外に持ち込んでも、確認先がない。まず自社に置き、それから伝える順番を守る。
  4. 関係先の一覧を更新し続ける業界紙・地方紙・専門メディア・業界団体を、担当者名まで含めて管理する。一斉送信ではなく、相手の関心に合わせて個別に伝える。
  5. 掲載後を測る掲載回数ではなく、その後に社名検索・問い合わせ・採用応募がどう動いたかを見る。露出を目的にすると、続ける理由が失われる。
Related terms

関連用語

Summary

まとめ:関係が先にあり、露出は後からついてくる

PR(パブリックリレーションズ)は、組織と関わりのある人々との間に、相互に利益のある関係を築いていく活動です。PRSAが2012年に示した定義でも、中心に置かれているのは「関係」であって発信量ではありません。広告が枠を買って自社の言葉で語るのに対し、PRは第三者が語る状態をつくります。文言を選べない代わりに、そのまま信じてもらえる。この非対称が、広告費で競えない中小企業にとっての勝ち筋になります。実務で先にやるべきは、発表の企画ではなく材料の棚卸しです。社内では当たり前に見えている事実こそ、外から見れば語る理由になります。それをオウンドに置き、関係先に個別に伝え、掲載後の反応まで追う。AIには監視と下書きを任せ、事実確認は人が行う。この順番を守れば、広告を止めても問い合わせが途切れない状態、つまり顧客が自分から社名で探してくる仕組みに近づいていきます。

関連サービス:マーケティング戦略の立案 — 誰との関係を、どの材料で、どの出口から築くか。PRを思いつきの発表で終わらせないための全体設計から整理します。
カテゴリ:戦略・設計

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